川越の町雑誌「小江戸ものがたり」の最新号(15号)が12月10日、川越むかし工房(川越市松江町)から発売された。
同誌では渋沢栄一と川越を特集。大河ドラマ「青天を衝け」の主人公、埼玉県の偉人であり新1万円札にもなる人物、渋沢栄一と川越の「あまり知られていない話」を掲載。渋沢の後妻、伊藤兼子(かねこ)の妹の子孫のインタビューや、飯能戦争慰霊の際に渋沢と尾高惇忠(あつただ)が宿泊した旧家訪問など。1911(明治44)年に喜多院で撮影された、早稲田大学校友会埼玉大会の記念撮影には、渋沢栄一、大隈重信、高田早苗が、当時の川越の政財界の重鎮と共に写っており、この写真を読み解くことで、川越と渋沢の関係や、川越の近代化などに関わった川越の先人の姿も浮かび上がるという。NPO法人「川越蔵の会」により建物再生事業が行われている「喜多町弁天横丁」は15年前、作家・林真理子さんが描いた花柳界小説「花」の舞台になっている。かつて「芸者横丁」と呼ばれ、老妓が営む小料理屋があった時代の面影を残すその場所を紹介する。
同誌発行のきっかけについて、編集発行人の藤井美登利(みどり)さんは「喜多院で写された一枚の写真との出合いから始まった。写真は、渋沢栄一、大隈重信、元川越藩主松平直之(なおゆき)、高田早苗が、喜多院の中庭で写っているもの。当時、喜多院は徳川幕府の庇護(ひご)を失い、五百羅漢の石仏も首を落とされたり、境内が荒廃していたりした。喜多院の貴重な文化財を保護するための基金を渋沢が作った。大隈重信を総裁とした、喜多院星岳保勝会の設立総会と講演会のために喜多院に集った際の記念写真に写っている人を一人一人紹介している」と話す。
「埼玉県の偉人であり、日本資本主義の父と言われる、偉くて遠い人のイメージのある渋沢栄一だが、川越の町の人との交流を知ることで身近に感じてほしい。川越に、埼玉県で初めての国立銀行『第85国立銀行』設立のアドバイスも行い、川越の近代化にも関わっている。ビジネスだけではなく『埼玉育児院』(埼玉県で初めての孤児院)の運営にも尽力をした栄一翁の姿は、行き過ぎた資本主義を私たちに考えさせてくれる。コロナ禍で遠くに旅行はできないが、川越の人に、埋もれた昔の話が身近にたくさんあること、そんな歴史の旅の水先案内として拙著を使ってもらえるとうれしい。見慣れた風景もきっと変わって見えるのでは」と藤井さんは話す。
価格は770円。本の店太陽堂(川越市幸町)、小江戸〇〇屋などで扱う。