川越市の映画館「川越スカラ座」(川越市元町1)で2月14日、弁士・伴奏付き無声映画上映会が開かれた。
上映されたのは1927年に製作された「第七天国」。オースティン・ストロング原作の舞台劇を映画化したもので、第1回アカデミー賞監督賞、女優賞、脚本賞を受賞している。パリの下水清掃人のチコはある日、姉に虐待をされているディアンヌという女性を街で見掛けてかばう。警察に身元調査をされ、とっさにディアンヌを妻だと偽ったチコは、自身が「第七天国」と呼ぶ屋根裏部屋に彼女をかくまい、一緒に生活をすることになる。生活を共にするうちに芽生え始める愛と、無残にも2人の仲を引き裂く第1次世界大戦、困難の中でも前を向いて生きる人々の姿を描く作品。
同館では2014年から不定期で弁士・伴奏つき無声映画の上映会を行っており、今回で6回目。1回目から弁士はハルキさん、伴奏を新垣隆さんが務めている。「弁士」とは「活動写真弁士」の略で、無声映画の上映中にその内容を語りで解説する専門士。無声映画は俳優のせりふや背景説明を字幕で説明する「ショット」と呼ばれる手法が使われているが、海外の無声映画を日本で上映する際には口頭での吹き替えが行われた。文化背景の違いなどから「ショット」の部分の対訳だけでは日本人の観客に理解しづらい場面などをナレーションによって説明する弁士の仕事が生まれた。
「弁士は何度も作品を見て、原作や基になった舞台にも目を通す。字幕部分の対訳は用意されているが、それ以外の場面で話されるセリフや解説、ナレーションは弁士によって作られている」と、オフィスアゲインの松田豊さんは話す。
当日、座席は前売り券だけで完売。上映前にはハルキさんによる作品解説と時代背景の説明などが行われ、新垣さんの伴奏に合わせて上映が始まった。ハルキさんは上映中、登場人物に合わせて声色を変え活弁を行い、観客を魅了した。
120分近い上映時間の中、新垣さんは伴奏を弾き続けたが、そのほとんどは即興だという。「あらかじめ場面ごとのイメージなどは作っておくが、あとは実際に上映されている映像を見ながら即興で弾いている」と新垣さん。「初めてこの作品を見たのは数年前だが、今回は全く新しい気持ちで伴奏を弾くことができた」とも。
上映終了後、ハルキさんは「『第七天国』の弁士を務めたのは今回が初めて。無声映画の中でも上映時間が長いので体力的にも大変だったが、非常にやりがいを感じた。ずっといつか活弁をしてみたいと思っていた作品だったので、今回スカラ座でやることができて本当に良かった」と感想を語った。
次回の無声映画上映会は6月4日を予定。