「川越の輝く女性特集」5回目は、社交ダンス教室の講師で、現役選手でもある岡田祐子さん。川越にダンススタジオを構え、競技選手の育成から初心者向けエクササイズ指導などに取り組み、社交ダンスの魅力を伝えている。選手としてはJDSF-PDラテン5年連続グランドファイナリストになるなど、若手選手と肩を並べながら結果を残し続けているプロ社交ダンサーだ。
大学の部活で社交ダンスを始め、全国大会でも好成績を収めた岡田さん。大学卒業後は銀行に就職し、働きながらアマチュア選手として活動していたが、「パフォーマンスで感動を与えたい」と社交ダンスのプロへ転向。同時期にダンス愛好家のレッスンにも携わるようになり、現在、競技歴は30年、講師歴は25年にもなる。
プロ転向後に岡田さんは、「ペアダンスの2人だからできるバランスやムーブメント」「男女だから生まれるドラマ性」といったペアダンスでしか表現できないことが自分にとって重要なものだと気付く。パートナーについても、「ビジネスと割り切りすぎなくてもいいのでは」「長く一緒にやれる人に巡り合いたい」と考えるようになった。そして同じころ、現在のダンスのパートナーであり、夫でもある岸田肇さんと出会う。
当時パートナーを探していた岡田さんは、岸田さんの人柄に引かれペアを組むことを決意。だが当時都内に住んでいた岡田さんが、狭山に住んでいた岸田さんと練習するためには、その度に長時間の移動を余儀なくされた。しかし岡田さんはこの時、「何とかなる」と自身の直感を信じたという。
現在岡田さんが岸田さんと二人三脚で経営する「岸田ダンスアカデミー」は2020年10月1日で15周年を迎えた。元々は狭山のスタジオから始まった岸田ダンスアカデミーだが、区画整理のため約3年で移転することになる。移転場所を検討する中で、岡田さんは幼いころから縁のあった川越の魅力を再発見。現在のスタジオを一目見て「この場所だ」と感じ、2008(平成20)年からは川越で教室の経営と社交ダンス指導を行っている。
教室を始めたころは、ダンス愛好家や競技選手をメインに「社交ダンスの経験がある人、楽しさを知っている人」を対象に指導していた岡田さん。しかし東日本大震災や新型コロナウイルス感染症などを経験し、岡田さんは競技選手だけでなく、より多くの人に社交ダンスを通じて「リフレッシュ」「エナジーチャージ」の機会を提供することにも力を入れ始める。
不要不急の外出が制限される中、岡田さんは「こんな時だからこそ体を動かして元気にならなくては」と感じ、そのためにも「ダンスは不要不急ではない」と考えるようになったという。コロナの流行以降は教室での指導だけでなく、オンラインでの活動を始めた。オンライン講座ではコロナで体を動かす機会が減ってしまった状況を踏まえて、「おうちでできるエクササイズ」の方法を提供している。受講者からは「週1回30分でもお休みすると体が不調になっていくのを感じる」「あばらのさび取りの大切さを感じ、気が付いたらやっている」などうれしい声が多数寄せられているという。
社交ダンスの指導者として「忙しい女性たちをいつまでもエネルギッシュに美しく活動できるようサポートしたい」と活動の幅を広げてきた岡田さん。きっかけは、難病の母の介護を通じて、社交ダンスの介護予防における有効性を実感したことだったと話す。近年では社交ダンスが認知症予防に効果的という研究結果も出ている。岡田さんは教室やオンライン講座の他にブログを活用し、生涯スポーツとしての社交ダンスの魅力も発信している。
競技選手としての岡田さんは現在、JDSF-PDのファイナリストであり、年齢別のラテンダンス世界選手権では表彰台に上っている。社交ダンスには、長年競技を続けてきたからこそ出られる競技会もあり、年齢を重ねても若い選手と一緒に競技を盛り上げていけるのは、社交ダンスならでは。「大人の円熟味」を表現することや、2人で踊るテクニックを極めること、体を労わりながら少ない力で最大限のパフォーマンスを発揮することなど、競技歴30年の今だからこそできるダンスがあると岡田さんは話す。
教室を構え、川越にいる時間が増えたことで、岡田さんの環境にはさまざまな変化があった。
岸田ダンスアカデミーは3年前から、川越市内の店主や事業主が講師となって専門的な知識や情報を市民である受講生に伝える少人数制の講座「川越まちゼミ」に参加している。コロナの影響でオンライン開催も始まり、オンラインの特性を生かした講座を開講。オンライン講座をきっかけに「自分の姿を見られることに抵抗がある」人たちがダンスの講座に気軽に参加できるようになった。
岡田さんはまた、川越で頑張りたい女性同士が同業種・異業種でつながることで、仕事の楽しみや幅を広げられる「川越女子オシゴトの縁結びコミュニティ」のメンバーとして活動。PR動画では着物姿で華麗な社交ダンスを披露した。7月11日に開く岸田ダンスアカデミー15周年記念パーティーでも「川越女子オシゴトの縁結びコミュニティ」とのコラボ企画を用意。岡田さんが演出と振り付けを担当した着物でダンス&ファッションショーと、地元の子どもチアチームの発表を予定している。
川越での活動によって地域交流が増えた岡田さんは、川越の人々の協力体制に驚いたという。現在川越は、地域一体となってコロナの苦境を乗り越えようという動きが活発だ。岡田さんも自身の経験を生かし、「川越からコロナだけど元気な発信をしていきたい」と話す。
(1) 社交ダンスは「非日常」
社交ダンスを生で見たことがないという人は少なくない。多くの人々にとって社交ダンスは「非日常」。しかし、「意外と気軽にできること、日常に生かせることを知ってもらい、ダンスを広めていきたい」と岡田さんは話す。
社交ダンスは360度、あらゆる方向から見られる競技。社交ダンスによって横や後ろ姿を意識できるようになると、姿勢や所作が美しくなるという。ダンスで身につけた美しさは一過性のファッションではなく、一生ものだと考える岡田さん。一度身につければ年齢を重ねても、楽にかつしなやかに姿勢を整え続けることができる。
岡田さんは姿勢の悪い人を見ると、「もったいない」と感じるという。特に川越は気軽に着物を着て歩くことができる街だが、衣装だけでなく姿勢を含めて「着物の似合う街」になってほしいと岡田さんは願う。
(2) スタジオで文化的な交流を
岸田ダンスアカデミーのスタジオを利用して、2020(平成32)年10月に「小江戸川越・秋の女子まつり」を開催。スタジオの換気を徹底し、検温・連絡先の記入・手指消毒を呼び掛け、出店者と来場者に安心して参加してもらえるよう対策を念入りに行った。密にならないようブース数を制限。イベントを通して岡田さんは「できる範囲で、リアルで楽しい時間を過ごせた」と感じた。
5月には「小江戸川越春の女子まつり」を開催。「物販・ワークショップの出店とダンスタイムの組み合わせ」が好評だという。「花セラピー」「アロマスプレー作り」「街歩き着物体験」「パーソナルカラー診断」など、さまざまな癒やし・体験・ショッピングを集めた同イベント。岡田さんは「物静かな雰囲気でブースが個々に活動しがちなイベントにダンスタイムが入ることでアクティブな一体感が生まれる」とイベントを振り返る。
「場所を提供することで良いご縁が生まれればスタジオも喜ぶ」と岡田さんはイベントの企画や開催に意欲を見せる。
「継続は力なり」
「常にニュートラルに、これだと思ったものを選ぶ」ことを心掛けているという岡田さんは、そうあるためには「一つやり通しているものが必要」と話す。ダンスのしなやかさやエレガントな表現は、芯があるからこそできるもの。そしてそれは生き方も同じであると岡田さんは考える。コロナで活動に制限がある中、方法を模索しながら社交ダンスを続ける岡田さんは、継続することの大切さを誰よりも感じている。これまでの人生を振り返り、「ダンスも生き方も、その時その時でやり方は変わるけれど、年齢や状況に応じた楽しみ方をすれば良い」と、コロナ禍で活動を続ける覚悟を見せる。
一緒にダンスフロアで踊り、ワクワクした一体感をシェアできるのは社交ダンスの魅力の一つ。パーティーを開いた際、岡田さんには参加者から「すごく楽しかった」「元気が出た」「皆で盛り上げられてワクワクした」「またやりたい」などの声が掛けられた。「こうした体験を企画することを通して元気なエネルギーをお届けしているのが私たちの仕事なのだな」と岡田さんは実感したという。社交ダンスの活動を通してコロナ時代を明るく照らす、岡田さんの華麗な活躍はまだまだ続く。